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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)284号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人ら代理人弁護士熊谷正治の上告理由第二、第三点について。

原判決は、昭和二二年一一月一五日判示村農地委員会は本件土地を上告人府金謹吾の単独所有と認め、自作農創設特別措置法(以下自創法という)三条一項三号に基づく買収計画を定めてその旨公示し、上告人の前身である北海道農地委員会は同年一二月二日右買収計画を承認したこと、上告人らは昭和二三年一月一八日右村農地委員会に対し本件土地に関する共有確認の和解調書謄本を提出して右買収計画の取消を求めたが、その応諾するところとならなかつたので同年三月三日右道農地委員会に対し本件土地は上告人らの共有であることを理由として右買収計画を取消すべき旨の訴願を提起し、次いで昭和二四年五月七日右道農地委員会は右訴願は前示村農地委員会に対する異議申立の手続を経由していない不適法なものであるとの理由で却下する旨裁決し該裁決書は同年六月一二日上告人らに送達されたことは当事者間に争のない事実であるとして、確定した上、右の如く市町村農地委員会の定めた農地買収計画に対し不服ある土地所有者が都道府県農地委員会に対し訴願をなすには先ず市町村農地委員会に対し異議の申立をなすことを要件とすることは自創法七条の規定によつて明らかであるが、不服申立人に正当な事由のあるときは右異議の申立を経ることなく、直ちに都道府県農地委員会に訴願をなすことを妨げるものではない。しかし、本件の場合判示のような事情であつたから、上告人らには右正当の事由ありというを得ないものであると判示した上、上告人らの前示裁決取消の請求を排斥しているものであることは、原判文上明らかである。自創法七条は市町村農業委員会(旧法の農地委員会)の定めた農地買収計画に対し不服ある当該農地の所有権者は市町村農業委員会に異議を申立てることができ、この申立に対する決定に対して不服ある申立人は都道府県農業委員会(旧法では農地委員会)に訴願することができる旨明定している。従つて右訴願は右異議の申立を前提としているのであるが、この前置主義は絶対の原則と解すべきではない。思うに行政事件訴訟特例法(以下特例法という)二条は行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴についてはいわゆる訴願前置主義を採用し、ただ例外として不服申立人に正当な事由があるときは、訴願の裁決を経ないでも訴を提起することができる旨明定している。そして訴願と異議申立の関係と訴訟と訴願との関係はそれぞれ独自の性格を有し右両者は必ずしも同一に律することを得ないが、訴願も訴訟も行政処分の取消を求める点ではその軌を同じうするものであり、従つて訴願の提起を訴訟のそれよりも厳格に遇すべき何らの理由もないから、右前者の関係については右特例法二条の精神を類推準用し、不服申立人に正当な事由があるときは異議申立をすることなく直ちに訴願を提起することができるものと解するを相当とする(原判示はこの点に関する限り正当である)。そこで、上告人らに本件訴願について右にいう正当の事由があつたか否かというに、この点に関し原判決はその挙示の証拠により、前示村農地委員会は昭和二二年八月二三日本件土地が公簿上上告人府金謹吾の単独所有に係る小作地となつていたので、これを買収すべき旨内定し、これに対し上告人らからこれを不服とする申入れがあつたが同年九月二二、二三日の両日に亘つて開催された右委員会は上告人らの右申入を取上げないことにした。然るにその後同年一〇月二八日開催の懇談会の席上桧山支庁係官から本件土地について裁判上の共有確認を得た場合は買収計画から削除しても差支ない旨の説示があつたので、上告人謹吾を除く爾余の上告人らから登記簿上の所有名義人である謹吾を相手方として函館簡易裁判所に本件土地共有確認の和解の申立をなす一方、同年一一月一三日謹吾から買収決定延期方の願書を提出したが、右委員会は同月一五日後日上告人らから裁判上の共有確認書類の提出のあつたときは買収計画を取消す旨の決議をなし、次いで、本件土地を謹吾の単独所有に係る自創法三条一項三号の保有面積外の農地として買収計画を定めたものであるとの事実を認定した上、以上のような事実関係の下においては前示にいわゆる正当事由ありというを得ないものと判示しているのである。しかしながら前叙のように事態が推移したものであれば上告人らとしては前記和解調書謄本の提出によつて本件買収計画の取消さるることを期待するのは当然であり、従つて法定の期間内に異議の申立をしなかつたのも無理からぬ次第と認めざるを得ないから本件の場合は特段な事情の認められない限り上告人らに本件訴願について前示にいわゆる正当な事由があつたものと認めるを相当とする。然らば原判決が上叙と反対の所見の下に上告人らの本件訴願を不適法のものと断じたのは不法であり所論は結局理由あるに帰する。

同第一点について。

原判決は本件買収計画取消の訴は自創法四七条の二、特例法五条四項の規定に基づき前示訴願却下の裁決書が上告人らに送達された昭和二四年六月一二日から一ケ月内に提起さるべき筋合のものであつたが、右買収計画の取消を求むる旨記載した請求の趣旨拡張の申立と題する書面の提出されたのは昭和二五年八月二日であるから、右訴は右一ケ月の出訴期間経過後に提起された不適法なものであると判示していることは判文上明らかである。しかしながら記録によつて認め得らるる如く、上告人らは本件第一審最初の口頭弁論期日である昭和二三年七月一四日以来本件訴願却下の裁決の取消を請求しているのであり右請求は実質的には本件買収計画の違法を攻撃しているに外ならないものであるから、このような場合には訴訟の事実審に係属する限り前示出訴期間にかかわりなく請求の趣旨の拡張によつて買収計画そのものの取消を併せて訴求することを得るものと解するを相当とする(尤もこの場合、訴願が適法であることが要件であるが、本件において前記訴願が適法のものであることは前段説示のとおりである)。さすれば、原判決はこの点においてもかきんあるを免れないものであつて、所論は結局理由あるに帰する。

以上のとおりであるから原判決は爾余の論旨に対する判断をするまでもなく到底破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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